近年の世界ではSDGsをはじめとして環境、そして人により配慮する産業の在り方が考えられている。
そのなかで、化粧品業界でも新しい潮流が芽生え、広がりを見せている。それが「クリーン・ビューティ」という考え方である。
日本でも大手メーカーからこの「クリーン・ビューティ」に関する商品も登場しており、日本の生活にも徐々に浸透を見せているが、果たして中国市場ではどうなのだろうか?
今回は簡単にその状況をみていこう。
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目次
人と環境がwin-winとなるコスメ環境を
まずはクリーン・ビューティについて考えてみよう。
世界的に広がりつつある概念であるが、国内でも世界的にも共通した基準・規定があるわけではない。
ただ、その考え方を大きく分けると
①人体や環境にやさしい成分
②環境に配慮した生産・販売
③そのほか、社会などに対してエシカルな思考で作られ、販売されている
といったものが含まれており、そのいずれかに該当すると「クリーン・ビューティ」という事ができる。
すでに日本でもSDGsの流れの中で、多くのブランドがクリーン・ビューティに向けて動き出しており、雑誌などの化粧品関連メディアでも特集も組まれている。
①、②に関しては比較的理解がしやすい。
人体に有害な成分を使わず、また生産過程によっても工業廃水や排気等によって環境汚染を防ぐというものが中心になるだろう。
③はやや範囲が広いが、例えば化粧品の成分実験で「動物による実験を避ける」というものもこれに含まれる。
使用者に対する安全性を担保するため、メーカー側は研究を繰り返して安全な商品を販売するのだが、その中で行なわれてきた動物実験というものも、非人道的なもの、動物保護の観点から否定的な見方が生まれている。
こうした細かな部分にも目を向けようというもので、人と自然、動物にも優しい化粧品を目指した理念なのである。
「人にやさしい」ことを求める中国消費者
では、中国でこの考え方はどこまで刺さるのか、という点である。
結論を述べれば前述①における半分。すなわち「人体に優しい」という点が大きなポイントとなるだろうと思われる。
もしこの「クリーン・ビューティ」を現在日本でも強調されているSDGs(持続可能な発展)とつなげて考えるのであれば、②や③ににおいて大きな「環境」という部分がクローズアップされる。しかし、こうした環境保護と消費材の購入という消費レベルにおいては、完全にリンクしきっていない。
一般消費材に関して「この会社は環境にやさしい生産をしている」という点は消費に影響を与えずらい社会といえる。
なぜならこうした「生産における環境配慮」という部分は主に国の施策であって、その基準を満たしている企業のものが流通していると考えるのであって、その生産に関する基準をどのように引き締めるのかは、国が行うものという意識が強い。
それに比して「人体(皮膚など)に優しい、もしくは無害」という点は、現在多くの中国消費者の嗜好と合致する。
その代表例が「成分党」と呼ばれる、化粧品の成分に非常に強いこだわりを有している消費者たちであり、90後世代(1995年以降に生まれた若い世代)が中心となっている。
彼女たちは常に肌の各種課題に効果のある成分を研究し、SNSを通じて発信しており、同時に「どういった成分が肌の悩みに効果があるのか」といった情報をSNS上に求めている。
【グラフ】「スキンケア×成分」のWeiboクチコミ件数推移
このような成分を気にする消費者のポイントがこれまでの「肌に有益な成分が入っているか」という点から、「有害なものは入っていないか、肌へのダメージはないか」といった、安全性を求める(肌への悪影響が少ないものを求める)傾向が強くなっていることを、2020年にCBNと天猫国際が共同で作成した「Z世代趨勢美粧消費洞察報告」で指摘されている。
そして、この「肌へのストレスがない」、「肌に無害」、「有害物質が含まれていない」状況の化粧品を「クリーン・ビューティ」として、Z世代の新たなコスメ潮流として紹介している。
この中国式「Clean Beauty」の意識の高まりにおいては、「天然」や「植物由来」といったキーワードへの注目度が高まっている。
前出のCBN&天猫国際のレポートにおいても45%の消費者が「天然・草本(植物由来)の化粧品が肌の悩みを解決した」と回答している。またキーワードでも「アロエ」や「ビタミンE」、「茶」などがホットワード化するなど、中国本土の漢方系化粧品の市場の高まりを感じさせる。
こうした中国式の「クリーン・ビューティ」の思考は、海におけるクリーン・ビューティが含む環境に配慮することを目的においたものではないが、消費者が肌へのダメージを避けるために無公害の植物素材などを選んで使用することによって、コスメ消費においても消費と環境保護の双方が成立する可能性が高い。
ただ目下のところ、こうした思考はスキンケアに集中している。メイクアップへの広がりは、ベースメイクなどを経て、もう少し時間がかかるようにも考えられる。
中国では一般化粧品の許認可に関する動物実験を中止すると発表された。これが消費者にどのようなインパクトを与えるかは不明であるが、注目すべき動向といえる。
こうした流れがどのようなトレンドを作っていくのか、継続してみていきたい。