世界の美容・化粧品業界がその消費に注目し、多くの労力を費やしているのが中国市場である。同時に中国市場に注力しながらも、世界の流れも気になる今日この頃。
今回は2020年の中国化粧品市場の様子を簡単に振り返りながら、中国の「美」の概念と世界の潮流を合わせて考えてみよう。
目次
コロナの影響なんのその。伸びる化粧品消費
中国のコンサルティング会社「聞道網絡」によるレポート『2020小紅書面膜市場洞察』では、2020年の小紅書への投稿を基に、中国のフェイスマスク市場の状況を分析している。
【グラフ】2020年小紅書月ごとの美容関連ノート数
出所:2020小红书面膜市场洞察(聞道網絡)
それによると、小紅書の美容関係の全般のノート数は増加傾向が続いているという。
月ごとに見てみると、新型コロナウイルスの影響を受けた1月、2月に関してはノート数の落ち込みが見られたが、3月の婦人節から上昇に転じ、商戦618がある6月に上半期のトップに、そしてその後ダブルイレブンのある11月から年末にかけて非常に高い水準を保っていることが見て取れる。
長い新型コロナ対策で外出もできず鬱屈した気持ちを、外出解禁となりかつEC商戦を迎えたことで、もともと多い小紅書の美容・コスメ系投稿も一気に増加。
中国社会消費品小売総額における「化粧品類」の伸びを見ると、2020年1-2月~3月こそコロナ禍の影響を受ける前の前年を下回ったが、それ以降は前年を上回る推移で消費されており、2020年6月、11月の商戦期は大きく前年を上回る結果となっている。
【グラフ】社会消費品小売総額「化粧品類」消費額推移
出所:中国統計局
SNSを見ても実際の化粧品消費金額の面でも、中国では依然として高い人気を誇っていることが見てとれる。
やや保守的な中国の「美」の概念
さて、こうした化粧品の伸びはすなわち、中国消費者の「美」への追究の高さなのだが、中国の女性たちはどのような美を求めているのだろうか、振り返ってみたい。
中国の消費傾向を見るところ、中国の美的感覚は保守色が強い。伝統的な「美」の概念が現在でも色濃く残っているのである。
その代表が「美白」である。
現在、世界的には「肌が白い=よい、理想的」という概念に関しては非常にデリケートな話題となっている。
しかし、中国ではまだまだ「美白」ニーズが高く、マーケティング領域でも「美白」をうたった商品は非常に多い。
中国国際美容博覧会の主催企業であるCIBEでは2020年6月に『2020線上美白産品消費偏好報告書』を発表しているが、2020年1月から5月にかけて美白関連商品の販売金額が伸びている。
【グラフ】2020年1月~5月の「美白化粧品」の販売額(単位:億元)
出所:《2020线上美白产品消费偏好研究》(CIBE)
また同レポートの2014年からの「美白スキンケア化粧品登記数」の推移を掲載しているが、それを見ても、2019年の時点では前年の75%の伸びを見せており、美白商品の増加も顕著となっている。
【グラフ】美白スキンケア化粧品登記数の推移(単数:件)
出所:《2020线上美白产品消费偏好研究》(CIBE)
さらに言えば、中国では「女性の肌が白い」ことを条件にする言葉も、依然として広く使われている。
例えば社会発展の中で生まれた理想的な女性像を示す言葉として「白・富・美」がある。
すなわち「色白」で「経済的に豊か」で、かつ「美人」というのが「勝ち組」の象徴とされてきたのである。
「美人」の概念は年代によって若干差があり、Z世代などは「かわいい」というのも入ってくるのだが、押しなべて「肌の白さ」は条件となっているようだ。
もっと極端の例を言えば「一白遮三丑(醜)」という言葉がある。
「肌の色が白ければ、ほかの欠点はすべてナシ」という意味合いの言葉である。現在の日本やその他の世界でこうしたことを公的な場所で発信すれば、大きな批判を呼んでしまうであろうが、中国では社会全般として「美白を求める」ことが一般概念として定着している。
いわば「美白」と「美」は、数千年にわたって紐づいているのである。
小紅書においても「美白」というキーワードは200万件以上のノート、8600件余りの商品が検索されており、いずれも「美白になるための方法や商品」がポジティブな内容で(美白のキーワードとともに)紹介されている。
「白く」か「明るく」か。グローバルブランドの悩み
グローバルブランドとしては新たな悩みもある。
それは繰り返し述べたように、世界的には「美白(肌が白い事)を理想とする」価値観には厳しい目が向けられている点である。
すでに欧米系ブランドロレアルでは2020年6月に「美白」といったキーワードを、スキンケア商品からは取り除くことが発表されている。
それについて中国消費者の反応は冷ややかである。
30代上海在住の女性に話を聞いてみたが「それでも美白の効果はあるのであればそれでいい」といった回答が返ってきた。
どのキーワードを使うかはブランドの問題であり、実際にどのような効果があるのか、きちんと確認出来ればそれでいい、という反応である。
中国のSNS上では「美白提亮」という形で、肌を「白く」、「明るく」するといったキーワードもあり、中国消費者が好む「美白」ニーズを別の言葉で表すことも可能であるようにも思える(小紅書では「提亮」単独のノート数は150万程度)。
中国において「美白市場」自体は変わらず高い成長を続けると予想される。しかしグローバルブランドは今後、世界的な潮流に合わせながら、中国語での言葉選びも必要になってくると思われる。