中国で拡大を見せているメンズコスメ。テレビやネットを彩る男性アイドルたちを筆頭に、ジェンダーの枠にとらわれない、思い思いのオシャレを楽しむ男子も増えているといえる。
しかしそんな「メンズコスメ」をクチコミ調査にかけてみると、中国の「ジェンダー」をめぐる環境は、いまだ伝統的な価値基準から脱し切れていない…そんな様子が見て取れる。
今回はメンズコスメのクチコミ分析を通して見える、中国のコスメ男子たちの置かれた環境を分析してみよう。
▼前回の記事は
Z世代男子がキレイに変化 中国メンズコスメニーズを探るVol.1
目次
安定したクチコミ件数。商戦、イベント期には急増
今回、トレンドExpressでは中国メンズコスメの状況を知るべく、Weibo簡易分析を行った。
Weiboの調査というと「小紅書のほうがそのトレンドを明確に知ることができるのでは?」という意見もある。
確かに体験共有型の小紅書(RED)では、メンズコスメの使用投稿や紹介投稿が多く、その仕様動向を知ることができる。
しかし、まず知るべきなのは世論である。
その消費対象者が社会的にどのような意見に晒されているかを知らなければ、その消費者の本当の悩みを知り、寄り添うことはできないのである。
さて、そんなWeibo上のメンズコスメ、まずは「男性化粧」というキーワードで、男性が化粧をすることの印象を調べてみた。
最初は月次クチコミ件数の推移である。
【グラフ】「男性化粧」に関する月次投稿件数推移(2020年5月~2021年4月)
出所:TrendExpress China調べ
男性が化粧をすることに関するクチコミは、月平均700~800件が投稿されており、安定した件数を示している。
特にイベントごとの多い年末・年度末にはクチコミ件数が伸びており、特に12月のクリスマスイベント、2月の春節イベントは、メイクをした男性芸能人が多く投稿されることもあり、クチコミ件数の上昇がみられる。
中でも12月、クリスマスシーズンが、クリスマスパーティにおける男性コスメ、メイクに関する投稿がなされており、ずば抜けて多くなっている。
また同時に「男性化粧品」での投稿件数を見たが、こちらは11月、そして2月の商戦シーズンに上昇がみられており、消費市場においてメンズコスメ商品も商戦に参入しており、訴求がなされているものと考えられる。
ポジティブ率は高いものの、保守的からの変革期
興味深いのは、「男性コスメ」に関するクチコミのポジティブ、ネガティブ、ニュートラルの別である。
【グラフ】「男性化粧」クチコミのポジ・ネガ比率
出所:TrendExpress China調べ
実際にはポジティブ率が13.23%と比較的高く、すでに男性が化粧(スキンケア、メイクアップかは問わない)をすることに良い印象を持つ層が増えているのだと感じられる。
すでに「男性が化粧なんて!」という時代ではなくなっているのである。
とはいうものの、ネガティブな印象を持つネット民も4%存在している。それを多いと見るか少ないと見るかは判断が分かれるところである。
ただ、ひと昔前、ほんの4~5年前までオシャレな男性が主流ではなかった時期を考えられ場、男性がスキンケアなどのコスメ消費を行うという事、そしてそれをポジティブに取るという層が存在しているという部分が大きな変化であるように思える。
いわゆる転換期に相当するのであるが、その環境は「男性化粧」とともに投稿されるキーワードランキングを見ると、それを深く感じることができる。
ベースメイクのニーズも見えながら、いまだに残る保守的な意識。
では、中国の男性コスメのキーワードランキングを見てみよう。
【表】「男性化粧」のキーワードランキング
出所:TrendExpress China調べ
同時に、簡易分析でも「メンズコスメ」とともに口込まれた商品としては「洗顔クリーム」などの基礎化粧品、そして、「ファンデーション」、「エアクッション」などの肌を美しく見せるベースメイクなどが上位に挙がっていた。
同時に「リップスティック」や「メイクアップアーティスト」など、男性によるメイクに関するキーワードも上がっており、単にスキンケア、身だしなみに限らず、メイクアップを行うことが見て取れる。
また「初心者」、「チュートリアル」というキーワードが見える。
コスメ使用をする男性は増えてはいるものの、初めて手に取るという男性も多いらしく、前回紹介したような「初心者男性向けノウハウレッスン」といった投稿も少なくない。
こうした初心者をどう取り込んでいくのかも、今後の市場展開の鍵となるだろう。
ただ、キーワードを眺めていると「性差別」、「権利」、「性嗜好」、さらには「センシティブな話題」といった言葉も現れている。
繰り返しになるが、中国ではいまだ「ジェンダー」に関しては保守的である。国としても「既存の性別的区別を明確にする」というのが方針のように見え、先日も「中国の“LGBTQ”に関するSNS公式アカウントが削除された」というニュースが日本でも報じられている。
男性は男性らしく、女性は女性らしく。それが社会的秩序であるという認識が残っているのである。
そうした社会ではいまだに男性が化粧をするという事に対して、ネガティブな、もしくは否定的な意見を持つ消費者も少なくない。
出現しているキーワードからは、中国でキレイになろうとする男子たちはそうした社会的環境、意識の間で揺れている状況が見て取れる。
とはいえ、男性がスキンケア、メイクアップを含めて化粧を施すことをバックアップする声も生まれており、2021年5月には女性にも人気の高いキレイ系男性アイドルである「鹿晗」が、インタビューの中で「コスメに性別は関係ない」という発言をしている。
それに対する反論も起こっているが、メイク男子たちを擁護する声が上げられていることは、社会の転換が起こる兆しといえるだろう。
難しい社会環境の中でも広がっている中国のメンズコスメ。
次回は「男性×スキンケア」、「男性×メイクアップ」のクチコミ調査の状況を見てみよう。
▼次回の記事はこちら
Z世代男子がキレイに変化 中国メンズコスメニーズを探るVol.3 ~クチコミから見えるコスメ男子急成長の兆し?~