前回まで見たように、中国におけるメンズコスメはスキンケアを中心に、いろいろな社会の課題を含み間ながらも、徐々に拡大している様子が見て取れる。
そうした中、メンズスキンケアのクチコミ簡易分析において人気となったのがアルマーニ、そしてすでに中国のコスメ市場に浸透しているロレアルの名前が上げられていた。
今回はその2大ブランドにおけるメンズスキンケアについて、同じく簡易分析を実施。それぞれのブランドの違いを見ていこう。
▼前回までの記事
Z世代男子がキレイに変化 中国メンズコスメニーズを探るVol.1
Z世代男子がキレイに変化 中国メンズコスメニーズを探る Vol.2 クチコミ分析で見えるコスメ男子のジレンマ
Z世代男子がキレイに変化 中国メンズコスメニーズを探るVol.3 ~クチコミから見えるコスメ男子急成長の兆し?~
目次
アルマーニ、ロレアルの2大ブランドをクチコミ分析
前回、メンズスキンケアのWeiboのクチコミにおいて件数が多かったのがアルマーニとロレアルであった。
そこで、「アルマーニメンズスキンケア」および「ロレアルメンズスキンケア」のキーワードで、同じくWeiboによる簡易クチコミ分析を実施した。
アルマーニはハイエンド、ロレアルはどちらかいえば一般向け商品が多く、一概に競合として見ることはできないが、黎明期にある中国メンズコスメを代表するブランドとして見ていきたい。
まずは、月ごとに見たクチコミ件数の推移である。
【グラフ】アルマーニとロレアル、メンズスキンケアのクチコミ推移
出所:TrendExpress China調べ
これを見ると、アルマーニは直近1年間で13万件、月平均でも1万件以上のクチコミを見ることができる。
それに対してロレアルは商戦期などの波はあるものの、年間でも5万3000件、月平均で4400件程度にとどまっており、アルマーニが大きく上回っていることが見て取れる。
Weiboのクチコミ上においては、アルマーニ人気が群を抜いている。この理由に関しては、後ほどキーワードの中身を見つつ、分析を加えてみよう。
続いて、両者のクチコミにおけるポジティブ・ネガティブの比率を見てみる。
【グラフ】アルマーニとロレアル、スキンケアクチコミのポジネガ比率
出所:TrendExpress China調べ
こちらで見られるのは、クチコミ件数こそアルマーニがロレアルを上回っているが、ポジティブ度合いを見ると、逆転しておりロレアルは20%近くがポジティブなクチコミ内容となっている。
それに比してアルマーニは、ポジティブ、ネガティブともに少なく、「可もなく不可もない」クチコミが主流である。
こうした点から予想されるのは、アルマーニ側はクチコミは多いものの、「商品体験としては一般」、もしくは「実質的なユーザーが少ない可能性」が指摘される。
ただ同ブランドは世界でも有数のラグジュアリーブランドであり、商品そのものの質が低いとは考えにくい。
そうした疑問を考えながら、両者のクチコミの中身を見ていくことにしよう。
代言人での浸透を狙うアルマーニと実用性のロレアル
下記はアルマーニとロレアルのクチコミキーワードランキングから上位30件をピックアップしたものである。
簡易調査であるため、ノイズも多いのだが、キーワードの傾向から両者の違いの読み取りを試みる。
【表】アルマーニとロレアルのクチコミキーワードランキング
出所:TrendExpress China調べ
まずは両ブランドともに「代言人」に関するクチコミが多い。
アルマーニは2020年から代言人として人気男性アイドル「易烊千玺」をブランドの顔として起用している。

アルマーニの「顔」となった易烊千玺
その範囲はメンズコスメに限ったものではなく、女性向けスキンケア、メイクアップなど同ブランド全体を網羅する内容である。
しかも2021年4月には易烊千玺を引き続き起用、グローバルパートナーとして前面に押し出している。
彼が若い女性からも絶大の人気を誇っているため、彼を起用した宣伝告知などはWeibo上でも極めて高いエンゲージメントをたたき出している。
一例として挙げられるのが2020年3月にメンズコスメの「ホワイトデープレゼント」キャンペーンに関する投稿である。
「いいね」だけで10万件、コメントも8000件を超え、リツイートも5.6万件と、まさにアイドル効果をもたらしている。
しかし、そのほかのメンズコスメ商品に関する投稿のエンゲージメントは低く、数件程度にとどまっている。
T-Mallにおけるアルマーニのメンズスキンケアセットを確認してみたが、直近の月販数は50件程度、コメントも70件程度を多くはない。
そもそもワンセット1340元と極めて効果であり、まだ男性でそこまでの費用を投じてスキンケアを購入しようという消費者も少ない。
むしろ女性側がプレゼントとして購入しているケースが、T-Mallからも見られる。
こうした状況から見るように、同ブランドコスメ商品の主力ターゲットは女性であり、女性に人気の高い代言人を起用。その効果がメンズスキンケアのクチコミにも影響し、話題・消費が作られているものと考えられる。
いわば「女性経済の一端としてのメンズスキンケア」といえるだろう。
それに対するのがロレアルである。
クチコミこそ代言人である「呉亦凡」となっており、アイドルの影響力を活用している様子が見て取れる(ただし、同氏は現在スキャンダルの真っ最中であり、ネガティブな影響が避けられない状況にある)。
またBVLGARI、HANS、LOUIS VUITTONなどの複数のブランド名が上がっているが、ノイズの一種で、通常化粧品における比較対象と考えられる。
きちんと見ておきたいのはそれらの下である。
「洗顔クリーム」という具体的な商品セグメントが上げられており、ついで「オイルコントロール」、「補水」や「ハードコア(スクラブ)」など、実質的な効果や特徴が上げられている。
つまり使用後の感想や商品特性などのクチコミ投稿がなされているわけで、それだけ使用者も多いのではないかと予想される。
T-Mallの同ブランドメンズスキンケアを見てみると、主力である洗顔フォームが販売数の上位に来ており、月販数も5万件以上と大きな数値となっていることから、ユーザー数の多さが想像できる。
市場が完全に出来上がっていない、形成過渡期であるが、中国メンズコスメにおいてまずはロレアルが一般向けセグメントに浸透しており、ハイエンドゾーンをアルマーニが狙っている状況という事ができるかもしれない。
市場拡大とともにより多くのプレーヤーの参入が予想されるが、その市場変化を見る意味でも両ブランドの今後の動きには注目しておきたい。