中国における商戦の花形といえば「ライブコマース」。特に李佳琦や薇婭といった人気KOLを活用してのライブコマースに加え、新たなプラットホームである抖音、快手なども注目が集まっている。
2021年のダブルイレブンでも華やかなライブコマースが盛り上がりながら、その中にまた形容のしがたい変化のようなものが感じ取れる。
そんな変化の片りんを可能な限りまとめてみた。
目次
ブランド側も注力度合いアップの抖音ライブ
ライブに関して公式に発表を行っているのは抖音(Douyin)である。
抖音小店という独自のEC機能と「興趣電商(インタレストEC)」と呼ばれる、ユーザー嗜好解析とその解析を基にした商品を組み合わせる新たなECモデルを組み立てた抖音。
同アプリはダブルイレブン「好物節」と題して、10月27日から11月11までの期間でキャンペーンを展開している。
10月27日から11月11日までに行われたライブコマースの総時間は2546万時間と発表されている。
単純に16日間で割っても、1日平均159.1万時間のライブが行われた計算になる。
ややバカバカしい話だが、2546万時間という事は、日数でいえば106万日。年で計算すると、ざっと2900年余りとなる。
総視聴者数はのべ395億人なので、総人口を70億人として計算すると、地球5個分余りとなる。
そのうち、もっともGMVを稼いだライブは1回のライブで1.5億元以上(時間数未公開)とされている。
具体的な金額は不明ながら、もっとも売れ行きの商品群となったのは「アパレル・バッグ・シューズ類」だったが、2020年との比較した際の伸び率では「家電」、「ベビマタ」類が突出した結果となった。
もちろんコスメ類も安定した伸びを見せており、スキンケアおよびメイクアップでは以下のようなブランドが人気を集め、売上を伸ばしている。
【表】抖音ダブルイレブン好物節コスメ部門ランキング
出所:突发!抖音电商打出300张王牌!(億邦動力)
T-MallやJD.comほどの規模はないものの、
こうした背景にあるのは、メーカー側の意識変化がある。
もちろん諸々の理由からキャンペーン時におけるプラットホーム側のメーカーに対する「二者択一」の強要が禁止され、複数のチャネルに対して労力をかけられるようになっている。
その中で注目されていたのが、抖音と快手、2つのショート動画アプリであり、そのライブコマース機能である。
中国の小売専門メディア・億邦動力がダブルイレブン前に行った調査で、各メーカーが注力するプラットホームについてアンケートを行っているが、その結果に如実に表れている。
【グラフ】メーカーの注力プラットホーム(ダブルイレブン前)
出所:『2021品牌企業双11大促洞察報告』(ebrun)
これを見るとT-Mallは微減を見せ、JD.comは着実に前年度同様をキープ、そして抖音および快手への注力度合いが大きく増えているのが見て取れる。
ダブルイレブンに参加する企業側も、またそれを楽しみにしている消費者も、ライブコマース、特に抖音や快手などの新たなプラットホームに期待を寄せていたようである。
商戦後に明らかになったブランドVSライバー そこから考える今後
さて今年のダブルイレブン、その直後に今後のライブコマースの在り方を考えさせられる事件が起こったので、ここで簡単に考察しておこう。
それは李佳琦、薇婭の両カリスマKOLとT-Mallスキンケア部門でトップとなったロレアルとの確執である。
自体の状況は中国で広く報道されているため詳細は省くが、李佳琦がライブで紹介したのと同じ商品への特典がロレアル旗艦店直接購入のほうが手厚く、結果的にロレアル旗艦店のほうがお得に購入できてしまったことによる。
李佳琦などは「もっともお得に購入できる商品を紹介する」というのが信条でる李佳琦にとって、ロレアル側のこの行為は背反行為であり、面子を大きく傷つけられたようで、Weiboのアカウント上で本件について言及。
結果としてロレアル側が説明、謝罪。李佳琦および薇婭も「しばらくはロレアルとの提携は控える」旨を発表するという事態になった。
消費者の視点から見ても、同様の商品の値段が同一のキャンペーン中で大きく異なるという点は、あまり歓迎できるものではない。
しかし、ブランド側にはメーカー側の事情もあるだろう。
影響力のある(Trafficを呼び込め、売上件数が見込める)KOLの存在は、ライブコマースが主流の現在では、ブランド側も無視できないものがある。
しかし、そのKOLをアサインする費用(中国でいう坑位費)や20%~30%に上るマージンが計上され、そのうえで「消費者にとって最もお得な条件」の提示が求められるのである。
それらを計算すると、実質的な利益は多くはない。
あくまでも影響力を活用したマーケティングとしてカリスマKOLを活用したライブコマースは展開するが、同時に中間費用のかからない「自社旗艦店によるライブ・直接販売」にこぎつけたいという思いも強いのである。
実際に前出のメディア・億邦動力では「ブランド〇〇は〇時の時点で旗艦店ライブ閲覧者〇〇万人」といった情報を、ダブルイレブンの戦況速報として報じていた。
ここからは、ブランドとしてもカリスマKOLを介したライブよりも、自社の経済圏、旗艦店を中心としたファンマーケティングに巻き込みたいという意向が隠れている様にも感じられる。
つい先日、ダブルイレブンの売上第3位の「雪梨_Cherie」と第8位の「林珊珊Sunny」が脱税容疑で罰金、追加徴税処分を受けている。
実際に彼女たちの収入元となっているブランド側からしたら「あれだけ高い諸費用を払っているんだから、税金もしっかりしてよ」と言いたくなるだろう。
結果、2人はしばらくの間はライブができない状況になってしまっているため、ブランドとしてはより「自社旗艦店ライブを加速させる」方向へと向かいたくなるはずだ。
抖音は冒頭のライブ総時間のうち、ブランド自社ライブは1227万時間と半数近い時間となっている。
こうした点を鑑みて、2022年はブランドのプラットホーム選びやライブ形態の選択も、これまでとは異なるものが求められるようになるだろう。