中国の旅が変わっている。
日本でも広がっているキャンプが、中国でも急激にその人気を高めているのである。特に2022年5月は中国でキャンプへの関心が一気に高まった時期となっている。
そんな中国のキャンプブームを、トレンドExpressのクチコミ簡易分析を含めながら見ていく事としよう。
目次
中国キャンプ市場、2025年には1兆元(20兆円)越えの市場に?
中国でキャンプが急速に人気を集めている。
中国のシンクタンク・艾媒諮詢の調査によると、中国におけるキャンプの中核的市場規模は2014年の時点では100億元程度であったものが、2021年には747.5億元に拡大。そしてさらに2025年には2483.2億元に達し、その周辺商品などの市場を合わせると、同年にはキャンプ関連市場で1兆4400億元に達すると予想している。
こうした中国の旅の変化、特に「キャンプ」人気に関して、中国トレンドExpressでは2021年から注目し、主に労働節の分析で追いかけてきた。
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それがどうやら2022年に入り本格的な人気を見せ始めている様である。
トレンドExpressではこうした動きを把握すべく、「露営(キャンプ)」というワードでWeiboのクチコミ簡易調査を行った。
クチコミ件数の月次数推移を見てみると、2021年の6月から10月という非常に気候の良い時期にかけてクチコミ件数が徐々に上昇を見せている。
冬場、クチコミ件数は減少に入るが2022年2月以降、急速な伸びを見せている。
【グラフ】Weibo「露営(キャンプ)」クチコミ月次件数の推移
出所:Trend Express China調べ
特に4月5月は爆発的な伸びを見せているが、それには理由がある。
中国動画サイト「愛奇芸(アイチーイー)」で、キャンプをテーマとしたリアルバラエティ番組が制作、5月に配信されたのである。
同番組は「一起露営吧」、つまり「キャンプへ行こう」。まさにキャンプをメインにしたもの。さらには若者世代に人気のアイドルである陳偉霆、黄雅莉、王子異、楊迪に加え、ゲストとして王源も出演。
毎回、ゲームなどをこなしつつ、キャンプをしながら料理や興味のある話題について語りあうという内容になっている。
こうした番組が作られること、さらにその配信時期に一気にクチコミ件数が伸びていることから見れば、もちろん番組出演のアイドルファンによる投稿もあるのだろうが、そうしたものを通じてキャンプというものがZ世代に浸透してきていると見ることができるだろう。
Weibo投稿のポジネガ比率を見てみると、ポジティブの占める割合はおよそ23.5%と比較的高く、ネガティブも3%余りに抑えられている。
【グラフ】Weibo「露営」クチコミのポジネガ比率
出所:Trend Express China調べ
こうした点から見ても、キャンプが中国消費者に浸透してきているといえるだろう。
番組の影響が大きいキャンプクチコミ。キャンプ人気に拍車をかける
こうした旅の変化は、中国市場を見ている者にとっては大きな驚きを感じる。
かつて中国消費者にとって旅とは、「何かがある場所に行く」という目的が大きかった。
いわゆる歴史的な遺産建築や風景区、もしくはリゾート施設など、目的の場所が明確にある旅が多かった。
しかしキャンプは、いわば「何もない」場所に行き、自分で寝場所などを設営しなければならない旅であり、これまでの旅のスタイルとはまったく逆の楽しみ方である。
見るもの、提供されるものを楽しむのではなく、「自分の空間と時間を野外で楽しむ」時代、そうした楽しみを許容する時代へと変化しているのである。
キャンプが広がった背景には新型コロナウイルスによる観光への打撃、混雑回避(コロナ前より観光シーズンの混雑ぶりにはネガティブな声が多かった)、さらには日本のアニメ『ゆるきゃんΔ』の影響などが囁かれているが、いずれの理由にせよ、中国消費者の旅の変化を感じさせる。
そうしたキャンプに関するキーワードだが、必然的に前述の番組の影響がみられ、芸能人の名前が状に上がっている。
【表】「露営」クチコミ頻出キーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
ただ、キャンプの先として「公園」や「成都(市)」などが上げられている。
四川省は気候などももちろんだが、山に囲まれていることから絶景がみられるキャンプエリアなども増加中。番組などでも取り上げられている。
また依然としてキャンプ初心者が多い中国だけあって「装備」、すなわちキャンプグッズなどに関しても関心が高い。
実際にWeiboだけでなく、小紅書(RED)でも「キャンプに持っていくべきもの」や「おススメのテントブランド」などの書き込みが多い。
ちなみに中国シンクタンク・易観分析の調べでは、小紅書におけるキャンプ関係の投稿は2021年の7倍にまで達しているという。
クチコミにある「朋友圏(モーメンツ)」などは、WeChatの友人の間でもこうしたキャンプの情報がやり取りされていることを示しているとも考えられる。
さらに一番下にはなっているが「キャンピングカー」なども面白い。
世界有数の自動車大国の中国ではマイカーが必需品。その過程で「SUV」などを駆って郊外や山地などへ出かけるユーザーも多かった。
それらの一部が現在のキャンパーへと進化しているわけだが、さらにキャンプ専門の車を、という理想を感じ取ることができる。
人気アイドルと人気番組、それらによって中国のキャンプブームはさらに拡大しているのである。
これが今後のインバウンドなどにも波及する可能性も捨てきれない。
キャンプブームから起こる新商機
こうしたキャンプブーム、キャンプグッズ以外に新たな商機を生んでいる。
クチコミキーワードの中にある「白啤」とあるが、これは「白ビール」にこと。
このキーワードが上位に上がっている背景としては、同じくクチコミキーワードに上がっている「黒獅」にある。
これは前述のキャンプリアルバラエティ番組の「黒獅(LOWEN)」協賛ブランド名である、そのメイン商品が「白ビール」なのである。
同ブランドは中国国内の大手ビールブランド「華潤雪花」傘下にあるビールブランドで、ボトルデザイン、また「白ビール」という中国では比較的少ない、新しいビールという点で、おしゃれで新しい物好きの若者をターゲットにしたブランド。
しかも代言人は同じくZ世代に人気を博する俳優・王一博を起用。Z世代をターゲットにマーケティングを展開し、Weiboアカウント上でも積極的にブランディング動画などを通じて宣伝している。
そして若干、その尻馬に乗った感があるのが「青島ビール」。
こちらも「白ビール」を、同じくZ世代に人気の俳優である楊洋を起用し、キャンプ・野外をイメージにした動画を作製。
SNS公式アカウントなどを通じて発信を続けている。
こうした中で、「キャンプに行ったら白ビール」という印象を受け付けようという戦略のようだ。
それ以外にも野外でコーヒーをたしなみ「違いを感じる」ためのコーヒーグッズなども売れているが、思わぬ人気を得ているのが「野外電源」であるという。
キャンプとは言っても現代中国人にとってスマホやタブレットなどのモバイル端末は生活のなかで必要不可欠なものになっている。
また入門キャンパーも多いという事もあって、「外に行っても電気による明かりが無いと…」という理由で、野外電源への興味関心が増しているのだという。
易観分析による調査・分析では本格的なキャンプから、軽いキャンプ体験までを含めると、キャンプ人口は2030年には2.3億人に達するとまで言われている。
それに伴い、キャンプグッズやアウトドアファッション・グッズも含め、幅広い商品が恩恵を受けることになりそうである。