中国のスキンケア市場は成長とともに進化を続けている。そして同時に、中国の消費者も成熟の度合いを増してきている。
そうした市場において、企業は何が必要なのか。どういったマーケティングを行うべきなのか。
そのヒントを、2022年の中国スキンケア市場において、ビッグネームの影で着実に成長してきた中国ブランドを分析するところから見て行きたい。
目次
隠れたダークホースブランド「QUADHA」
先のダブルイレブンにおいて、コスメ領域で中国ブランドが引き続き存在感を見せている。
2021年ごろまでは、主にメイクアップブランドが台頭し、618やダブルイレブンT-Mall売上上位に中国ブランドが複数登場していた。
だが、2022年に入り欧米系の巻き返しや、リーディングと見られていた「完美日記(PerfectDiary)」が“息切れ”を起こすなど、持久力の弱さという欠点を見せてしまった。
結果、「花西子」は上位にい続けるものの、それに続くブランドが育たず、欧米系にランキングを占められる状況に陥っている。
しかし変わって注目されているのがスキンケアである。敏感肌市場を押さえた「WINONA」、618で急躍進したアンチエイジング化粧品の「PROYA」は、2022年のダブルイレブンでもトップ10入りを果たし、徐々にそのランキングを上げている。
さらに、このランキング外でも注目の中国国産スキンケアブランドが伸長を見せている。
それが「QUADHA(中国名:夸迪)」である。
同ブランドは2014年に成立したスキンケアブランドで、主にヒアルロン酸を成分とした機能性スキンケアとして展開している。
特徴的なのが主力商品。化粧水や乳液といったボトルタイプのスキンケアではなく、1回使い切りタイプの小さな容器が30本ワンセットなどで販売されているという点である。
もちろん、商品のラインナップでは「肌のハリ」や「ニキビ予防」といった、目的別の機能を備えた商品が開発されており、消費者は自身の肌状態に合わせて商品を選ぶことができるようになっている。
また注目しておきたいのは、同ブランドの運営企業である「華熙生物科技」。
2000年にバイオテクノロジー企業として成立、主にヒアルロン酸の研究に注力し、2007年には世界でも有数のヒアルロン酸企業に成長している(同社ホームページより)。
現在はスキンケア商品だけで「潤百顔」や「QUADHA」をはじめとして、13ものブランドを開発、展開。
さらには医療領域や医療美容、機能性食品をも開発しているという、ヒアルロン酸応用研究・開発における国内トップクラスの企業である。
同ブランドは一部では「値段が若干高め」という声もあるが、中国有数のヒアルロン酸研究の成果を詰め込んで開発されたブランドという事ができる。
クチコミから見える堅実な伸びと「ニキビと戦う」ブランド
では、このQUADHAをWeiboのクチコミ状況から見てみることとしよう。
まずは直近12ヶ月間の月次クチコミ件数推移から確認する。
【グラフ】QUADHAの月次クチコミ件数推移(Weibo)
出所:株式会社NOVARCA調べ
月次件数の平均数で見ると4200件程度、12か月間で約5万件のクチコミ投稿がなされている。
この数字はスキンケアブランドにおいては決して大きな数字ではないが、注目するべきはその伸び方である。
まず2021年の11月、ダブルイレブンの波を迎える。
そこから年初の最初の商戦ともいえる3.8婦人節時期にあたる2022年3月に微増。そして618を間近に控えた5月にさらにその数を伸ばしている。
その数字はいったんの落ち着きを見せるが、8月に急速な増加を見せている。
要因と考えられるのは8月に、中国式バレンタインデーと呼ばれる「七夕」に、30代女性の恋愛を描いたブランディング動画を公開している点である。
この動画に合わせ同社もSNSマーケティングなどを展開し、結果としてターゲットである肌の状態を気にする30代前後の女性に刺さったことが、クチコミ増加、同社のブランディングに寄与したのではないかと考えられる。
さらに同社のオフィシャルアカウントにおける投稿数は毎月決して多くはない。それでいてこれだけのクチコミ件数をもたらしているのは、投稿内容を見てみる限り一定のマーケティング費用を費やしてのKOLやKOC投稿を展開してきていることが予想される。
そして10月にはダブルイレブン直前に、李佳琦によるダブルイレブンライブへのオファー番組『所有女性的OFFER』でも取り上げられ、李佳琦のライブにも紹介されたこと、またその実績をSNS上で効果的に発信していたことで、大きく伸びている。
結果としてこの12カ月で、いわゆる階段式の理想的なクチコミの伸びを見せ、売上増という実績に結びついたのではないかと考えられる。
セオリーを踏んだ堅実なマーケティングだったという事ができるのではなかろうか。
続いて、そのクチコミの中身を見てみよう。
【表】QUADHA直近12カ月のクチコミキーワード上位30
出所:株式会社NOVARCA
まず上位に来ているのは「ヒアルロン酸」。
前述の通り、同社はヒアルロン酸専門の研究企業であり、商品開発においてもブランディングにおいても「ヒアルロン酸」は重要なキーワードであり、それが浸透していることが見て取れる。
その次に来るのが興味深い。
中国語では「戦痘」、日本語にすれば「ニキビと戦う」というキーワードである(「戦闘」の「闘」とニキビなどの皮膚上の出来物を意味する「痘」は音が同じ)。
同社T-Mall旗艦店において、売れ筋商品を見てみると、最も人気なのは「ニキビ対策」用美容液商品である。
T-Mallで表示される販売量を見ると、月に4000箱、累計で10万箱が販売されており、非常に高い人気を誇っていることが見て取れる。
さらに、「ニキビ」は中国において乾燥肌や敏感肌と同レベルで悩みを抱えている消費者が多く、大学生から社会人に至るまで広く関心の高いテーマとなっている。
「戦痘」というキーワードは、小紅書においても7万件以上のノートが確認でき、それらの投稿内容からは女性・男性の区別なく、際限のない戦いを繰り広げる敵であることが感じられる。
そうしたニキビ予防に効果があるスキンケアとして同ブランドは認知をされているようで、2022年8月にはT-Mallにおけるニキビ予防商品で月間トップとなっていることが、同商品の説明に見ることができる。
またキーワードにおいては、ヒアルロン酸だけではなく、肌に良いとされている各種成分も上位に上がってきており、同社ではヒアルロン酸を中心にこうした成分との組み合わせで「補水」や「肌の引き締め」などの効果に特化した消費を生み出していることが分かる。
さらに競合として現在、中国国産スキンケアにおいてはトップブランドとなっている「WINONA」の名前が挙がっており、コストそして効果の面で、WINONAに劣らぬ信頼、注目を集めていることが見て取れる。
まさに機能、そしてその機能のための成分に特化した商品として、中国のスキンケア市場に突き刺さったブランドと言えるだろう。
「生物科学」系企業のコスメが中国市場を席巻する?
さて、ここで市場全体を俯瞰してみたい。
中国で伸びているブランド、WINONAとQUADHAは、確かにスキンケア化粧品であるが、ブランドを展開している社名を見るとWINONAは「雲南貝泰妮生物科技集団」、そしてQUADHAは前述の通り「華熙生物科技」である。
双方ともに、運営企業は「生物科技」、すなわちバイオケミカル系の研究会社として成立しているのである。
また、2022年618以降、一気に成長しているPROYAは、企業名は化粧品会社であるが、自社ラボを有し、研究を行っているという、生物科学領域での研究に長けた化粧品ブランドであるというブランディングを展開している。
こうした背景にあるのは、中国における機能性スキンケア市場の急拡大である。
皮膚の特定の悩みに特化したスキンケア商品が中国では成長を続けており、華経産業研究院の調べでは2025年には1000億元規模の市場となると予想されている。
それに対して、日本を含め欧米、韓国系の大手会社は主に「化粧品会社」であり、「医薬品」や「生物科学の研究会社」ではない。
多くは同様の研究、開発施設を持っているものの、それをマーケティングに押して出している企業は少ない。
90年代に始まった中国の消費市場において日本を含めた外資系化粧品は「外資」、「ビッグネーム」という点を中心にマーケティングを展開してきた。
その時代は中国国内においては匹敵する競合も少なく、かつ消費者も商品を選ぶ視点も、「海外の大手ブランド」であることを基準に選んでいた。
しかし、時代は変わり、中国の消費者の意識も急速に成熟している。
特に「成分党」など、商品をより客観的に、科学的に分析し、消費行動につなげる傾向が強まっている今、外資系か中国系かという点よりも、そのブランドや企業が有する「専門性」に重きを置く傾向が強まっているように感じられる。
QUADHA 、WINONA、PROYA、こうしたバイオケミカル領域における背景を有した会社の化粧品は、もちろんカリスマライバーにおけるライブコマースや、SNSクチコミマーケティング(KOL、KOC)、またはブランディング動画などを大規模に活用し、消費者の眼を引いてきたことは間違いない。
しかし、いわゆる機能性スキンケアという分野において、中国消費者も単純なマーケティングだけに惹かれているとは言い切れない。
より高い「信頼性」を求めて、その企業の質(専門性)をも確認する時代に入っている。
日本の大手企業にも数ある機能性化粧品だが、中国市場においてシェアを得るためには、小手先のマーケティングや商品訴求だけではなく、会社単位での専門性ブランディングがより重要となる。
ブランド、製品レベルではなく、自社のブランディングをも視野に入れたマーケティング戦略が必要なのだ。