【セミナーレポート】免税制度の改正でどう変わる? リファンド制度移行の実態と対策 〜見過ごしてはいけないインバウンド需要のトレンド変化〜

2026年7月8日、株式会社NOVARCAは「免税制度の改正でどう変わる? リファンド制度移行の実態と対策 〜見過ごしてはいけないインバウンド需要のトレンド変化〜」と題したセミナーを、東京・麹町のグロービス経営大学院ホールにて開催しました。

2026年11月1日、訪日客向けの免税制度は「購入時免税方式」から「リファンド(出国時返金)方式」へと一斉に移行します。店頭で税抜価格のまま購入できた従来の仕組みが、いったん税込で支払い、出国時の税関確認を経て後から返金を受ける仕組みへ──。この大きな制度転換は、訪日客の買い方・回り方、そしてリテール・メーカーの売上構造にまで影響を及ぼします。

本セミナーでは、訪日客向け免税プラットフォームを展開する株式会社Ocean 代表取締役の星野遼氏をゲストに迎え、NOVARCA 代表取締役社長CEOの濱野智成がモデレーターを務めながら、最新のインバウンドトレンドとリファンド制度の実態、そして企業が打つべき対策を掘り下げました。当日は日本を代表するメーカー・リテール企業から100名を超える方々にご参加いただきました。本記事ではその内容を再構成してお届けします。

目次

登壇者のご紹介

星野 遼氏 株式会社Ocean 代表取締役

三井物産にて会計・ファイナンス業務、訪日市場での新規事業開発を経て、テンセントに参画。WeChat Pay日本のビジネスディレクターとして事業開発・パートナーシップを統括し、PayPay、au PAY、d払い、メルペイとの相互接続を主導。その後、訪日客向け免税プラットフォームを提供する株式会社Oceanを創業し、免税制度改正を見据えた次世代型サービスを展開中。日・中・英トリリンガル、米国公認会計士。

<モデレーター>

濱野 智成 株式会社NOVARCA 代表取締役社長CEO

Deloitteにてグループ最年少のシニアマネージャーとして東京支社長・事業開発本部長を歴任し、100社以上への経営支援・上場支援を経験。2015年、「日本企業を世界的に強くする」ことを志しNOVARCAを創業。政府主導のJ-Beauty政策策定にも参画し、官民横断で日本ブランドのグローバル化を後押ししている。

濱野 私どもは創業以来10年近く、こうしたセミナーを続けてきました。オールジャパンで世界に打ち勝つための事例やノウハウを皆さんと共有し、ブランドの世界的成長に還元したい。これが創業の思いであり、NOVARCAがこの会社をやっている意義でもあります。あえてオフラインで、ここに来ないと得られない情報をお届けすることにこだわっています。今日は法改正というかなり専門性の高いテーマですので、私も一緒に勉強しながら、皆さんからのご質問もリアルタイムで拾って掘り下げていきたいと思います。

第一部:インバウンドトレンドの現在地

制度の話に入る前に、まず濱野から最新データ(2026年5月末時点)に基づくインバウンド市場の現在地が共有されました。

中国が失速、韓国・台湾が牽引──そして米国の台頭


濱野 コロナ前からずっと訪日客数の推移をデータで追っていますが、中国は2025年11月を境にどんどん右肩下がりになってしまい、今はだいたいピーク時の30〜40%くらいの水準です。それでも全体では1〜4位につけているのですが、見てわかる通り、韓国がものすごい右肩上がりで伸びている。台湾も顕著に伸びていて、いま韓国・台湾が非常に強いエリアと認識されています。

そして昨今、私たちへのご相談が急増しているのが米国です。米国はいま訪日客数で第3位。特徴的なのは、もともとあまり買い物にお金を使わないと言われていた米国の方々の買い物消費が、最近すごく増えてきていることです。「米国人を軸にオールバウンドを進めたい、輸出も含めて進めたい」というご相談が非常に増えています。

消費額では台湾がトップに──ただしカテゴリー別に見方は変わる


濱野 ただ、訪日客数と消費額が相関するかというと、必ずしもそうではありません。2025年は通年で見るとやはり中国が一番で21%でした。ところが2026年Q1(1〜3月)では中国は第3位まで落ちて、牽引しているのは台湾、そして圧倒的な客数を誇る韓国です。もともと中国は消費額の半分近くを占めるほど大きなシェアを持っていましたから、多極化が進んでいるのが今の状況です。

ただし、これはセグメントで掘り下げないと誤解が生まれるポイントです。


濱野 化粧品で見ると、なんだかんだで中国が34%でトップです。台湾、韓国、米国と続きます。「K-Beautyが強いから日本の化粧品は韓国の方には買われないのでは」と言われていたのですが、最近はUSP(独自の強み)のある日本商品への需要が韓国からすごく増えていますし、ドン・キホーテなどを起点に広がっている商品も増えていると感じます。


濱野 医薬品はやはり台湾がものすごく強い。台湾が4割以上を占めてトップで、中国、韓国とほぼこの3エリアでシェアを占めています。製薬メーカーさんにとって台湾は絶対に欠かせないエリアで、最近はタイやベトナムから需要が増え始めたという動きもあります。

宝飾品・貴金属では多極化が進んでいて、台湾28%、中国22%、米国20%。米国の方の百貨店での購入が増えているのがここからも見て取れます。そして一番バランスがいいのがアパレルです。本当にいろいろな国の方々が日本のアパレルを好んで買ってくださっています。

インバウンド消費全体は2022年からずっと右肩上がりです。ただ、一社一社、一つひとつのブランドにフォーカスすると状況は全く違います。中国の影響が大きいリテールさんは前年比横ばい、一方で韓国の需要を取り込めているブランドさんは150%で伸びている。トレンドは変わります。そのトレンドにしっかりキャッチアップして、どの需要を取り込むのかがすごく大事です。今までと同じやり方では、いわば釣り場から魚が逃げてしまっている状態になりかねません。

リピーター比率と「コト消費」へのシフト


濱野 毎回お伝えしているのですが、初回比率とリピーターの数を見ると、その国・エリアの成熟度がわかります。韓国や台湾は初回比率が20%を切っています。それでもこれだけの数が来ているのは、リピート頻度がどんどん上がっているからです。初めて日本に来た方は東京・大阪に行きますが、慣れてくると「次は長崎、北海道」と多様化・分散化が進む。韓国・台湾はまさにその状況で、九州から入って熊本や長崎へと周遊が進んでいます。初回かリピートかによって買い物のされ方や旅の仕方は変わりますから、それを踏まえてターゲットエリアや訴求を決めていく必要があります。逆に人口×初回比率で見ると、中国・米国に加えてフィリピン・ベトナム・オーストラリアが注目です。


濱野 もう一つの構造変化が「モノからコトへ」です。旅行支出全体に占める買い物代のシェアは各エリアで減少傾向にあり、いわゆるコト消費にだんだんお金が使われるようになっています。お買い物で訴求したい場合にも、体験をきちんとセットで提供できるか。例えば化粧品ならカウンセリングのような体験をどう組み合わせるかで、買われ方は変わってきます。

リファンド制度への反応は国・地域で異なる──クチコミ分析より


濱野 第一部の最後に、「日本のリファンド制度」に関する各国・地域のSNSクチコミを分析したデータをご紹介します。言及数は右肩上がりで増えているのですが、中身は国・エリアで大きく異なることがわかりました。

中国本土は、GRAFFやBVLGARI、ダイヤモンドリング、百貨店といったワードが上位に来ています。百貨店での大量購入ができなくなりそうだ、ラグジュアリー商品を買うときにリファンドが面倒になる──高額商品を買う際にリファンドがどう変わるのかに注目しているのが中国本土です。

台湾はどちらかというと、どういう手順でリファンドすればいいのか、手数料は取られるのか、という免税手続きそのものに対する言及が多い。韓国はどれくらい割引が効かなくなるのかという価格への関心に加えて、ウイスキーなどお酒への言及が多いのが特徴です。

立地も面白くて、中国は東京・大阪、台湾は沖縄、韓国は九州・福岡が目立ちます。エリアごとの旅行動態の違いがそのまま表れています。

第二部:免税制度改正とリファンド制度の実態

ここからはゲストの星野氏を交え、対談形式で制度の中身を掘り下げていきます。

Oceanについて


星野 Oceanは2024年設立の、まだ本当に若いスタートアップです。タックスリファンド事業とインバウンドマーケティング事業の2つを提供しています。タックスリファンドを専門的にやっていくのはもちろんですが、事業者の皆さんの一番大元のニーズは「もっと海外の方に来てもらって、お金を落としていただきたい」ということだと思っています。ですから中長期的には、皆さんのお店への送客やマーケティングサービスの提供までを視野に入れて、このビジネスを始めました。

株主にはDelight Ventures(DeNAグループ)、Z Venture Capital(LINEヤフーグループ)、マイクロアドベンチャーズ、みずほキャピタルなどに参画いただいています。免税事業では海外の方のパスポート情報を取り扱いますので、情報セキュリティと個人情報の管理は非常に大事なことと認識しており、プライバシーマークやISMS「ISO/IEC 27001」の認証も取得しています。

免税制度はなぜ・どう変わるのか


濱野 ではまず基本的な問いから。免税制度はどう変わり、なぜ変わるのでしょうか。

星野 一言で言うと、もともと税抜価格で販売できたものが、いったん税込で支払って、後から払い戻しを受ける形に変わります。

なぜわざわざこういうことをしないといけないのか。消費税の原理原則に立ち返ると、日本国内で消費されたらちゃんと日本で納税する。海外に持ち出すのであれば輸出とほぼ同義なので、日本の消費税を払うべきではない──本来は単純にそういうものです。今までの日本の免税制度は、訪日のお客様にとって非常にフレンドリーで親切な制度でした。ただ残念ながら、日本から出国していないうちに免税価格で買った商品を転売するといった悪用が散見されていた。国としてもこれを放置できないので、今年の11月から改正がなされます。

もう一つの観点として、店頭で免税が完結する日本の方式は、世界的に見るとむしろ珍しいものでした。リファンド方式への移行は、世界標準に合わせたという捉え方もできると思います。

転売目的の「バイヤー買い」は減るのか

濱野 率直に聞きます。いわゆる転売目的の大量買い、バイヤー買いは減りますか。

星野 商品の属性によって変わると思っています。コモディティ商品を販売されている事業者には、バイヤーの方がこぞって買いに来ていたと思いますが、返金に伴って追加の手数料負担がかかってきます。バイヤーの方はビジネスとしてやっていますから、収益が成り立つかをちゃんと計算して動きます。その商品がAのお店でもBのお店でもCのお店でも買えるのであれば、より価格も手数料も低いお店に転じる可能性はある。免税への対応の仕方は事業者によってまちまちになっていきますから、11月以降に全容が見えてくると、店舗間の比較・競争はさらに起きていくと思います。

濱野 ここで一つポイントをお伝えすると、商品やブランドによりますが、日本売上として計上されていたもののうち、少なくとも10〜20%、多いところでは20〜30%くらいが、実際には海外で消費されていて、並行輸出入という形で流れていたと私は見ています。これが抑制されると、一見インバウンド売上がバッと下がったように見えます。しかし裏を返せば、非正規流通──いわゆるグレーマーケットを正規化していく大きなチャンスです。各国側も、ハンドキャリーでの持ち込みでは輸入関税を取りっぱぐれていますから、抑制の方向に動いています。インバウンドで減った分を、越境ECや正規流通の強化でどう取り戻すか。そこをセットで考える必要があります。

新しいカスタマージャーニー──購入から返金まで

濱野 ユーザーのジャーニーはどう変わりますか。一言で言えば「面倒になる」ということだと思いますが、詳しく教えてください。


星野 まず店頭では、日本人のお客様と同じように、必ず税込価格で販売します。お店側がやる手続きはほとんど変わりません。引き続きパスポート、上陸許可、そしてどの商品を買ったかという3点セット──「購入記録情報」と呼びますが──を記録して、国税庁のシステムに送信します。店内の手続きは「グロス(税込)で販売する」という点だけが変わります。

私たちの仕組みでは、購入されたお客様にQRコード付きのご案内をお渡しして、ホテルに戻った後などに読み取って、返金先の口座登録をしていただく流れになります。

大きく変わるのは出国時です。各空港・港に、国側がKIOSK端末を設置していきます。この端末はお金を受け取るためのものではなく、判定を行うためのものです。パスポートをかざすとランプが光ります。グリーンなら「あなたは返金を受ける権利があります。そのままお帰りください」。レッドが出たら、お近くの税関で荷物を開けて、商品をちゃんと所持していることを確認していただきます。確認できればグリーンに変わりますし、確認できなければ残念ながらお金は戻りません。


星野 私たちは税関と接続していますので、この方がグリーンなのかレッドなのかという通知を受け、返金してよい方に対して、あらかじめ登録された方法でお金をお戻ししていく、という形です。

濱野 このグリーン/レッドの判定基準は、数量×単価でアルゴリズムが決まるのだと私は思っていますが、非公開でなかなか解明が難しい。どう予測していますか。

星野 正確な答えは難しいのですが、年間4,000万人の訪日客全員にいきなりレッドをかけるわけにはいきません。一定の金額や商品件数といった基準に沿って、一定の確率でレッドが出る形になると推測されます。

一つ明確に厳しくなったのは高額商品です。1商品で100万円以上のものは、原則シリアルナンバーの入力がお店側に新たに義務付けられました。すべての商品にシリアルナンバーがあるわけではないので、難しい場合は形状やメーカーなどの情報を入れる形ですが、高額商品にはより厳しめのチェックがなされる傾向になると思います。

購買行動はどう変わるか──6つの想定変化


制度移行に伴い想定される購買行動の変化として、セッションでは以下の6点が整理されました。

  • 事前予約・事前登録が増える──返金には税関確認と返金先の事前登録が必要になり、来日前〜購入前のアプリ/ミニアプリ登録が一般化する
  • まとめ買いは「持ち出せる範囲」に──免税成立は購入記録単位で確認されるため、手荷物で持ち出せる数量に最適化される
  • 空港手続きの集中と混雑──出国時確認が要となり、空港に手続きが集中する
  • 体験・希少商材への集中──価格弾力性の高い日用品・医薬品は価格比較が進み、「ここでしか買えない」商材の相対的な強さが増す
  • バイヤーの店頭大量購入は縮小──持ち出し確認・購入記録単位の判定・免税手数料により、転売目的の大量購入は成立しづらくなる
  • 返金体験が再来店・再消費の起点に──滞在中に返金を受け取れる設計なら国内の再消費に回りやすい

星野 特に6番目は、私たちとしてはチャンスだと捉えています。今までは割引価格で販売してそのままお帰りになるだけで、購入した後の接点が生まれにくかった。リファンド型では必ず口座登録などの接点が生まれます。実際、返金のご案内をする紙の裏面に、自社の海外店舗の情報を載せている事業者もあります。日本にもっと来てほしい事業者は再来店を促す、越境ECサイトがある事業者は越境ECを宣伝する、海外のお店に来てほしい事業者は海外店舗を宣伝する。旅アトを築いていきたい事業者にとってのフックになると思います。

濱野 オールバウンド戦略を完成させるうえで、これまで旅アトとの接続、特にCRM連携が難しかったのですが、リファンドというメディアを通じて旅アト側の需要を増やしていく動きは今後増えそうです。現地に法人があれば現地側にきちんと連携できる仕組みにすると、より面白いと思います。

どの商品が影響を受けるのか


星野 リファンド型では免税手数料が発生しますので、影響度は商品の「価格弾力性」によって変わります。ブランド品や伝統工芸品、アニメ・キャラクターグッズのような希少価値・体験価値の高い商品は、「ここでしか買えない」需要が強いので手数料が購買判断に影響しにくい。一方、医薬品や定番化粧品、日用品のような代替可能なコモディティ商品は価格比較されやすく、手数料分の実質値上がりが購買に響きやすくなります。

実際、リテールの現場でも反応は分かれています。ドラッグストアなどコモディティ中心の業界では手数料をめぐる競争の動きが若干見られる一方で、アパレルやIPを中心とした事業者は、価格というよりも自分たちのブランドの強さを打ち出していく方向で、免税手数料はそこまで気にされないところが多い印象です。

濱野 インバウンド購入が大きくなる理由は2つだと思っています。1つが内外価格差、もう1つが「ここにしかない価値」です。アパレルなどコモディティではない商品はどちらかというと価値で買われていて、どこで買っても一緒と言われてしまうものは内外価格差で買われている部分が大きい。そうすると、付加価値をつけない限り、買われる場所の集約が進むといったトレンドの変化が起こると思います。

データの取得構造が変わる──マーケティングの新たなチャンス

濱野 メーカーさんが多いので聞きたいのですが、今までインバウンドの購買データを取ろうとすると、リテールさんのPOSデータで分析するケースがほとんどでした。データの取得構造の変化は、逆にチャンスがあるのではと思っています。


星野 店内で決済した手段と同じ手段に返金しなければならないという制約は特にありません。私たちはいろいろな海外の決済手段と接続して、消費者に多様な選択肢を提供することに注力してきました。返金時にどの決済手段が選ばれるのか、購入時の決済手段と同一なのか──そこも面白いデータになってくると思います。また、11月以降はどれくらいの方にグリーンが光るのか、レッドが光るのかも明らかになっていきますから、それをもとに価格調整や商品造成を検討していくことにも活かせるはずです。

特に直営店を持っていらっしゃるメーカーさんは、どういった方が免税手続きをして、どういった方がリファンド手続きをされたのかが顕著に見えてくるようになります。

濱野 これまでデータの利権はリテールさんにありました。リファンドシステムを使って申請したデータは基本的に免税事業者側に蓄積されますから、データの取り方が変わってくる。私たちももともとデータカンパニーですので、これはビジネスチャンスだと思っています。

リテールが準備すべきこと


濱野 リテールさんは11月待ったなしで、相当切迫して準備されていると感じます。何を準備すべきでしょうか。

星野 大きく分けて、免税システムとリファンドは本来切り分けられるものです。まず、今まで使っていた免税システムを改めてどこにするのかという選定。ほとんどの事業者にとって免税システムの自社構築はハードルが非常に高いので、私たちのような第三者のシステムを使うことになります。次にリファンドの部分、具体的にどこを使ってお金を戻していくかの選定です。

それからオペレーション設計です。これまで免税カウンターで現金でお戻ししていた事業者もいらっしゃると思いますが、今後はカウンターで現金を戻せなくなります。返金方法をどう設計し、どうご案内していくか。現場を円滑に回すための準備が必要です。

そして会計は結構変わります。いったん課税で売上を立てて、出国時にグリーン判定が出た方の分を免税売上に振り替える処理が必要になります。会計運用の整備と、実際の案内・研修もしていかなければなりません。

星野 一方で、メリットもあります。消耗品の50万円上限や、ビニールで梱包しないといけないというルールは撤廃されますので、店内のオペレーションはむしろ簡素化されます。輸出未確認のリスクや事務負荷も軽減されますし、返金時のUXでリピートを促進したり、海外の越境ECにつなげたりもできます。私たちは事業者側の手数料負担を基本ゼロとしていますので、これまでシステム利用料を理由に免税を避けていた事業者にとっても参入しやすくなります。

リスクで一番大きいのは時期です。お話しさせていただく中でも、いまだに制度が変わることをご存じない事業者や、「どうせまた延期でしょう」と思われている事業者が稀にいらっしゃいます。今回は現行制度との併用期間がなく、一斉に切り替わります。今から準備しないと間に合いません。もう一つ細かい点ですが、税関確認は購入記録単位です。一つの取引の中で1商品でも所持が確認できなければ、その取引全体の免税が認められなくなるので、お客様がちゃんと商品を持って出国することが必要です。

メーカーが準備すべきこと


星野 メーカーさんにとっては、お付き合いされている卸先の小売の免税手数料がまちまちになっていきます。コモディティを販売している小売には価格に敏感な消費者が訪れますから、手数料がどれくらい影響するかは注目すべきところです。

直営店舗をお持ちの事業者は、免税の手数料がもろに卸先の小売店との競争になっていきます。同じ商品を直営でも小売でも販売している場合、手数料は比較対象になり得ます。体験も同じです。使う免税事業者によって体験は変わりますから、「あちらのお店の方が体験がいいから、あちらで買います」ということはあり得なくはない。

チャンスとしては、自社商材の訪日需要が国籍・品目単位で可視化されていくこと。データに基づいて商品企画を高度化しやすくなりますし、リファンドは旅アトにつなげやすいので、連携や送客がしやすくなると思います。

濱野 ユーザージャーニーが変わると、ユーザー接点も変わります。今までなかったメディアが生まれてくる。11月にならないと読み切れない部分もあるので、トレンドをきちんとキャッチアップして対応することが大事です。また、体験や世界観を作りやすいのは直営です。直営で作った価値をシャワー効果で全リテールにどう広げていくか、という話も増えると思います。

免税システムの類型と選定の視点


濱野 免税システムには実際どんなものがあるのでしょうか。類型と選定の視点を教えてください。

星野 「免税システム」と一言で言っても、今まではお店が使うパスポート登録のシステムだけでした。リファンド型に変わると、お金を戻すという新たなパートが生まれます。大きく分けると、①店舗が主に使う免税処理のシステム、②リファンドを行うためのシステム、③どういった付加価値がつくか、の3つです。

免税処理は、パスポート情報などの購入記録情報を記録して国税庁に送信するもので、国税から認定を受けた「承認送信事業者」が提供します。リファンドは、出国後にお金を戻すための、どちらかというと訪日のお客様が使うシステムです。私たちは2つとも自社で構築していますが、免税処理はA社・リファンドはB社と切り分けて提供する事業者もいます。

商談をしていて感じるのは、ほとんどの事業者さんが①の店内オペレーションばかりを気にされて、②を気にされないことです。カスタマージャーニーがよくわからないので、返金の手数料がどうなるか、どういう手段に対応しているかまで気にされない。しかし訪日のお客様はむしろ②の方を気にします。どの返金手段に対応するのか、返金のサイクルはどうか、お客様が負担する手数料はどれくらいか。多言語対応やカスタマーサービスの体制も会社によってまちまちですから、カスタマージャーニー全体を含めて検討いただいた方がいいと思います。

濱野 これは私の客観的な意見ですが、日本の免税制度なのですから、本来は日本の事業者がもっと選ばれてよいはずだと思っています。

Ocean独自の強み──即時返金・データ分析・ミニアプリ


濱野 では、あえてOceanのシステムの優位性はどこにあるのか、ぜひPRしてください。

星野 あえて挙げると3つです。1つ目はリファンドのところ。私自身WeChat Payの出身ですので、返金手段には非常に力を入れてきました。特に高単価な商材を扱う事業者にとって重要なのは、いつ返金されるかです。私たちはクレジットカードを登録された方に対して、出国を待たずに購入後即時に返金できる仕組みを構築しています。滞在中にお金が戻れば「もう少し余分に消費しようか」という行動につながり、国内の再消費を促進できます。

2つ目はデータ分析機能です。管理ダッシュボードはBIツールとしてご活用いただくことを想定して作り込んでいます。免税データをもっとマーケティングに活かしたい事業者さんに、わかりやすいレポートとして提供できるようにしています。


星野 3つ目はお客様が利用するときの体験です。中国の方はほとんどアプリのダウンロードを嫌がりますし、ファーウェイの機種を使っている方はOSが異なるため海外のアプリをダウンロードできません。アプリのダウンロードが必須の仕組みでは、返金を受けられない方が出てしまいます。そこで中国向けにはWeChatミニプログラムで申請が完結する動線を構築しました。台湾や韓国、インドネシアの一部はLINEが普及していますので、LINEの中で申請が完結する仕組みを、免税事業者として世界で初めて構築しています。LINEヤフーグループは私たちの株主でもあります。

導入事例:アニメイト──POS連携なしで全国展開


濱野 導入事例として、アニメイトさんはなぜOceanを選んだのでしょうか。使い手側がなぜ選んだのかをぜひお話しください。

星野 アニメイトさんは2025年の年末頃から検討を始められて、かなり短いスパンで導入に至りました。一番の狙いは店舗オペレーションの簡素化です。POSレジ連携はあえてせず、いかにオペレーションを早くできるか。ただSKUの件数が非常に多いので、レシートをOCRでスキャンする仕組みを私たちが社内で開発しました。今までは手打ちだったものを、パスポートも上陸許可もレシートも、すべて写真を撮って識別するだけで完結できるようにした。店舗のオペレーション時間はかなり短縮されました。

第三部:インバウンドトレンドに起こる変化と対策

セミナーの総括として、濱野から「11月から起こる変化」への対策が3つの軸で整理されました。

濱野 総括すると、11月にならないとわからないことも多々ありますが、まず、バイヤー購入の減少に伴う売上減への対策は非常に大事です。内外価格差という「価格的価値」ではなく、ツーリストにとっての「希少性価値」の開発と訴求を強化していかないと、コモディティの需要縮小が日本の中で起こってしまいます。

2つ目は購入場所の集約です。レシートをいっぱいかき集めて保管するのは面倒ですから、買い場は強いリテールへの集約が進む可能性があります。どこのリテールに集約されていくのかをジャーニーとして見ていく必要がありますし、逆に集約される側に回らないために、「うちのリテールを選んでいただく理由」をどうブランディングしていくか。これまでリテールがブランディングをするということはあまりなかったのですが、メーカーと一緒に「ここで買うとこういうベネフィットがある」を共創的に作っていかないと、集約されてしまうリスクがあります。

3つ目は、事前予約や免税ECなど買い場のアップデートが起こり、ユーザージャーニーが変わることです。新しいチャネルが生まれるなら、そこを捉えた新規接点や需要の創出が必要です。免税システムそのものが一つのメディアになり得ると思っていますので、その接点をどう活かしていくかが大事なポイントです。

質疑応答

会場からはQRコード経由でリアルタイムに多数の質問が寄せられ、時間の許す限り回答が行われました。主なやり取りを抜粋してご紹介します。

Q. 円安と免税、インバウンド消費への影響はどちらが大きい?

星野 前職のWeChat Pay時代は日々為替を追っていましたが、円安は特に買い物というシーンにおいて大きく影響するものだと考えています。ただ、それはマクロの動向であって、一般の事業者には左右できません。自助努力として何ができるかを考えると、消費の価格や品質に加えて、決済や免税といったツールの経済条件・手数料を強化していくこと。周りのお店との競争を考えたときには、大事なトピックになってきます。

濱野 これだけ円安でアメリカに行くのが高くても、ワールドカップを見に行く人がいるのは価値があるからですよね。日本旅行に対する価値が高まれば、円高になっても来る人はなくなりません。円安か、免税10%か、という側面も大事ですが、そこに来ていただく理由、そのブランドを買っていただく理由を洗練させていくことが本質だと思います。

Q. 返金手数料の相場感は?

星野 結論から申し上げると、相場的なものはまだ存在していません。手数料には2つの構造があります。1つは免税処理手数料、つまりシステム利用料的なもので、免税対象の商品価格に対して1.5〜2.5%程度が一般的です。もう1つが、消費者が受け取るはずの消費税額に対してかかる送金手数料です。これは返金手段によってまちまちで、高いところでは送金額の15%というケースもあれば、1〜2%や定額のところもあります。

手数料競争が起こっているのかというご質問もありましたが、起こっています。ただ、皆さんが気にされているのは前者ばかりで、消費者が負担する後者の手数料はほとんど知られていません。非公開にしている事業者もいて、わかりにくいマーケットになっているのは否めません。蓋を開けてみると「最初は1.5%くらい」と聞いていたのに、消費者からするともっと高い手数料が取られている、ということはあり得ます。消費者の受取額に直結する部分ですから、選定の際は必ず確認された方がいいと思います。

Q. 制度移行後、インバウンドの購買データは取れなくなる?

星野 リテールさんがレジのオペレーションで取っているデータは引き続き取れますので、止まることはありません。私たちのような免税事業者と連携いただければ、契約された事業者にはデータをご覧いただける形にしていますし、むしろ統合的にデータを取れる可能性が広がると思います。

濱野 例えばUV商品を買った方に「これも買い忘れていませんか」とリターゲティングする、この商品を買った人はこの商品も併買する可能性が高いという分析から相互送客する──リファンドの申請データがあると、そうしたことがやりやすくなります。データを接続できるかが大事になってくるので、免税事業者のシェアがどうなっていくかは非常に注目です。

Q. 店頭表示は「Tax Free」から「Tax Refund」に変えるべき?

星野 実体験で申し上げると、現状は一部の店舗が免税価格で販売し、一部がリファンド型という過渡期なので、「Tax Free」と掲げると「免税価格じゃないの?」というお声を一部いただいたことはあります。ただ11月になれば世の中全体がリファンド型に変わりますので、FreeでもRefundでも大きくは変わりません。むしろ「Tax Free」という単語の方が消費者に馴染みがありますから、継続して使っても理解されないということはあまりないと見ています。

Q. 税関判定が出る前に返金するのはリスクではないのか? 返金は何日かかる?

星野 事前の即時返金はクレジットカードに限定しています。当然リスクは背負っていますが、仮に税関でレッドが光った場合は、翌月の支払明細に返金分を足し戻して請求する仕組みを取っていますので、リスクは比較的抑えられます。

返金が何日かかるかは事業者によってまちまちですが、私たちの標準の処理期間はグリーン判定が出てから5〜10営業日以内としています。事業者さんとの精算は月2回で、その間は私たちが立て替えて送金する形です。

Q. 市中免税よりも空港免税が増えるのでは?

星野 空港がどれくらい混雑するか次第だと思っています。空港会社も国もKIOSKの数を増やしたり、告知をしたりと努力されていますが、人数がかなり多いので、そればかりは読めないところがあります。11月のタイミングを我々も待ち望んでいる状況です。

濱野 空港でまとめ買いをするというより、レシートを1枚にまとめられる強いリテールへの集約の方が本筋だと私は見ています。空港は品揃えが限られますし、百貨店で買い回りをしても一つにまとめて申請できるメリットがありますから、集約の方が重要なテーマになると思います。

Q. 中国の訪日客はいつ頃戻る?

星野 国際情勢・政治が絡むのでかなり読みづらいのですが、それを除けば、皆さんの訪日旅行への意欲は引き続き高く、そこは変わりません。現実問題として一番影響しているのは便数です。人を運んでこられる数自体が減っていますから、仮に情勢が緩和されてもいきなり増便はできない。緩やかな回復になると思います。

濱野 楽観シナリオでも年内、基本は長期戦と見た方がいいと思います。それでも30〜40万人は来ていますから、そこをしっかり見ることが一つ。そして今回の免税制度変更によるバイヤー買いの影響は中国が一番大きい。中国側も保税区を推進して並行輸入を抑制していく方向が見えていますから、正規流通に乗せて考えていく。インバウンドで減った分を越境ECでどう取り戻すか、現地でのプレゼンスをどう上げるか、体験価値としての日本での価値をどう作るかの方が本質的に重要です。また3ヶ月後にもう一度未来予測しましょう。

まとめ──「価格で選ばれる」から「価値で選ばれる」への転換点

セミナーの最後に、星野氏は起業の思いをこう語りました。

星野 税制改正という変化のタイミングはありますが、それ以上に、せっかく日本にはこれだけ良い商品、良い体験、素晴らしい観光資源があるのですから、価格ではない価値をもっと打ち出していかないと、中長期的な競争力、日本のファンを作れないと思っています。免税システムは非常にクローズドな業界で、調べても公開されている情報が少ない。業界自体をフラットに盛り上げていくことを私たちも目指していますし、この事業を通じてもっと多くの方に日本を訪れてもらい、中長期的にはマーケティングや送客、データ提供を通じてインバウンド全体を盛り上げる努力をしていきたいと思います。

2026年11月1日の制度移行まで、残された時間は多くありません。本セミナーで示された論点を整理すると──

  • 訪日市場は中国一極から韓国・台湾・米国など多極化へ。トレンドの定点観測と、取り込む需要の見極めが不可欠
  • リファンド移行でバイヤー買いは縮小し、コモディティは価格・手数料競争と買い場の集約が進む。内外価格差に依存しない希少性価値の開発が急務
  • 併用期間なしの一斉切替。リテールはシステム選定・オペレーション設計・会計対応を今すぐ準備すべき
  • 返金体験・免税データという新しい顧客接点が生まれる。旅アトの送客・CRM・越境ECへの接続は、オールバウンド戦略の新たな武器になる

NOVARCAは、訪日ツーリストを起点に世界の需要を開発する「オールバウンド戦略」を提唱し、インバウンドからアウトバウンド(越境EC・現地流通)までを一気通貫で支援しています。「免税制度改正への対応をどう進めるべきか」「インバウンド需要のトレンド変化を自社の戦略にどう落とし込むか」──そうした課題をお持ちの企業様は、ぜひお気軽にNOVARCAへご相談ください。

セミナー概要

  • セミナー名:免税制度の改正でどう変わる? リファンド制度移行の実態と対策 〜見過ごしてはいけないインバウンド需要のトレンド変化〜
  • 開催日時:2026年7月8日(水)16:00〜17:30
  • 会場:住友不動産麹町ビル グロービス経営大学院ホール(東京都千代田区)
  • 主催:株式会社NOVARCA
  • 登壇者:星野 遼氏(株式会社Ocean 代表取締役)/濱野 智成(株式会社NOVARCA 代表取締役社長CEO)

※本記事の内容は開催時点の情報です。免税制度の詳細は今後の政府発表等をご確認ください。